村下孝蔵さんの名曲【松山行フェリー】完全解説&鑑賞!歌詞の世界観を味わう
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当記事では、前回解説したデビューシングル「月あかり」のB面に収録された「松山行フェリー」を解説し、鑑賞してまいります。
- 参考:村下孝蔵さん楽曲解説特集🎸
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(⇒村下孝蔵さん楽曲解説・歌詞解題についての詳しい「考え方」はこちら)
ご興味のある方は、以下の記事もお楽しみいただけるはずと自負しておりますので、お時間のあるときにどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
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村下孝蔵さんの名曲【松山行フェリー】完全解説&鑑賞!歌詞の世界観を味わう(解説楽曲例:ロマンスカー、だめですか、いいなずけ、北斗七星、夢からさめたらなど)
もちろん個人的な解釈であり、味わい方ですので、皆様が村下さんの楽曲を鑑賞する際のひとつの参考となれたならば幸いです。
それでは、早速「松山行フェリー」の解説に入っていきましょう!
下部に歌詞全文を用意しましたので、適宜ご利用くださいね。
ところで本楽曲のタイトルなのじゃが、松山「行き」フェリーなのか、松山「行」フェリーなのか、どうにも表記ゆれがあるらしいぞ。
発売当初のレコードでは「き」が入っているけれども、全曲集『哀愁浪漫』では抜けているなど、どこかの時点で統一されたのかもしれんな。
- 🎵 当記事の著者について
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松山行フェリー『汽笛がきこえる街』所収
こんなにつらい別れの時が
来るのを知っていたら
解題
タイトルの通り、場面設定としては、男性と女性の関係が終わりをつげて、お相手の女性が乗ったフェリーを男性がいつまでも見送るというものです。
本楽曲は完全に村下さんの実体験が素材になった楽曲らしく、ご本人が事情をいろいろと説明しているテレビ番組の切り抜きなどもYouTubeに上がっていました。
別れの代名詞としてのフェリー
男性と女性はとても仲良く過ごしていて、結ばれようかというお話もきっと出ていたのでしょう。
しかし、女性は訳あって、新年度から瀬戸内海を渡った愛媛県へと転居することになります。
フェリーは出港までに時間がかかりますし、どうやって最後に声をかければよいのか分からなかった男性は、女性の顔を見ながらお別れするのをやめます。
代わりに、一人で丘の上から女性の乗ったフェリーを見送ることを決めたのでした。
君を愛さず友達のままで
僕は送りたかった
海岸線が続き、点々と島の浮かぶ右手の方向に赤い夕陽が沈みかけた夕方です。
男性は、これほどに想い合ってさえ離れなければならない「こんなにつらい別れの時が来るのを知っていたら」、女性のことを「愛さず友達のままで」、港で笑い合いながら「送りたかった」と涙をこらえます。
反対側の丘の向こうは濃い紫色の空へと変化し、ちらりと星が輝き始めました。
フェリーの汽笛の音がかすんで聞こえてきます。
「出来る事なら戻って来るわ
今は何も言わないで
きっと貴方はこの町で
私がいなくても」
女性が別れを切り出した夜にも、男性の気持ちなど全く気にもかけないかのように、あるいは男性に寄り添うように、白い星はいくつも瞬いていました。
「出来る事なら戻って来るわ 今は何も言わないで」という女性の言葉を聞いて、男性はうなずくしかありませんでした。
生きる世界のちがう二人
男性は、例えば歌手の仕事など、一般とは違う生活環境に身を置く職業に就き、またはそれを目指して活動を重ねていました。
まだ駆け出しで、望むときや舞台で歌うことはできません。居酒屋を巡って流しの仕事を続けた時期もありました。
そうした生活はたくさんの人との関わりを生み、男性自身も楽しんでいる部分はあったのですけれど、女性は「きっと貴方はこの町で 私がいなくても」と別れを決意します。
この部分は、男性に“新しい女”が現れたからなどという理由ではなく、女性が将来を見定める気持ちからの決断だったのでしょう。
港に沈む夕陽が
とても悲しく 見えるのは
すべてを乗せた船が遠く 消えるから
男性にとっては、女性とのこの関係がすべてでした。
日々ギターの練習を重ね、長時間の演奏でお金を稼ぎ、ともに暮らす家へ夜遅くに帰ってきたのは、全部女性のためです。
もはや流れ去って戻ることのないその日々を思い起こしながら、男性の目には「港に沈む夕陽が とても悲しく 見え」ました。
わざわざ海の向こうまで離れて行ってしまう女性が、出来れば帰ってくるなんてことが実際にあるとは思えません。
男性自身もそのことをよく理解しているので、いま見送っている「すべてを乗せた」フェリーが「遠く 消える」様子が、二人の別れを劇的に、印象的に決定づけているのを身に染みて感じるのです。
君が言ってた夕べの言葉
「もっとありふれた暮し…」
そんな事など今の僕に
出来はしないから
知らぬ間に流れ出て視界をにじませる紫色の涙の中に、女性の顔が浮かんできます。
女性が「言ってた」二人で会った最後の「夕べの言葉」が忘れられません。
「もっとありふれた暮し…」とつぶやいて、女性は昨夜去っていきました。
かつてこの道へと踏み込む選択をしたとき、男性だって何度も何度も悩み抜いた点です。
だから、男性は心の中で答えました。
「そんな事など今の僕に 出来はしないから」(ここでお別れだね……)
最初から最後まで女性の幸せを願っている
分かってくれていたはずなのに、いや、思えばきちんと話したことはあまりなかった……など、男性は取り戻せない過去を悔やみます。
二人でよく話をしていても、女性がこの不安定な道をついてきてくれたかは分かりません。
でも、だからこそ、男性はこの道を成就させ、女性を幸せにしてあげるつもりでした。
それももう叶わないことを、沈む陽とともに小さくなっていくフェリーの背中に突き付けられた男性は、まだ冷える春先の夕暮れに凍えそうな唇でつぶやきました。
いつかこの町を忘れ
君の幸せ見つけたら
僕の事などすぐにでも 忘れてほしい
忘れてほしい
男性にとって、昔もいまも、変わらず大切なことは女性が幸せになることです。
きっとそう遠くはない将来でしょう、女性は「いつか」別の誰かと出会い「この町を忘れ」て「幸せ」を「見つけ」るはずです。
そうなったら、こんなにつらい別れを迎えるしかなかった「僕の事などすぐにでも 忘れてほしい」。
僕はずっと覚えている。だから、幸せになった君は必ず「忘れてほしい」……。
男女が、人間が自らの道を選び取っていく中で、起こらざるを得ない別れや出会いという人生のうねりを美しく描いた名曲ですね。
聴きどころ
ライブではギターをかき鳴らす長い前奏のバージョンがよく演奏されていました。
そのギターの音の粒々のきれいさはやはり聴きどころですね~。
村下さんの細かめなビブラートや、広く伸びやかなファルセットもはっきりと聞くことができます。
まだ若さの残る美声も堪能できる楽曲ですね。
アコースティックバージョンの楽曲を集めた『GUITAR KOZO』でも本楽曲は披露されています。
管理人の感想
管理人がこの曲と出会ったのは、確かベストアルバムを入手したときだったと思います。
個人的に、村下孝蔵さんは「陽だまり」に触れて、それから悲しい歌へと進んでいましたので、本楽曲がまた明るい曲調で新鮮に感じた記憶があります。
明るい曲でMAXに悲しい歌を作ることができるんだなぁ、この裏腹な感じがいいなぁと思っていました。
一応(もちろん簡略化されたものですけど)楽譜も入手して、とりあえず譜面通りには弾けるようになりました……はずです(笑)
これから村下孝蔵さんに入っていく方で、今この記事をお読みくださっている方がもしいらっしゃいましたら、すでに本楽曲に出会ったことはすごいことです!
ぜひ、村下さんがたどった音楽的な道程を、年代を追いかけて楽しんでみてくださいね☆
松山行フェリー【歌詞全文】
こんなにつらい別れの時が 来るのを知っていたら 君を愛さず友達のままで 僕は送りたかった 「出来る事なら戻って来るわ 今は何も言わないで きっと貴方はこの町で 私がいなくても」 港に沈む夕陽が とても悲しく 見えるのは すべてを乗せた船が遠く 消えるから 君が言ってた夕べの言葉 「もっとありふれた暮し…」 そんな事など今の僕に 出来はしないから いつかこの町を忘れ 君の幸せ見つけたら 僕の事などすぐにでも 忘れてほしい 忘れてほしい
(作詞・作曲:村下孝蔵ー1980年5月21日)
関連記事ーその他楽曲解説
ここまでお読みくださってありがとうございました!
最後に改めて、当サイトでこれまで村下孝蔵さんの楽曲を解説した記事を掲げておきます。
ぜひ、これからも村下孝蔵さんの世界観を楽しんでくださいね☆
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