村下孝蔵さんの哲学曲【読み人知らず】が迫る真の人間像。歌詞の意味や世界観を解説&鑑賞
「読み人知らず」は村下孝蔵さんの楽曲のなかでも群を抜いてパワーのある、力強い哲学的な作品です。
歌詞の意味の難解さも、言葉遣いの平易さに対してかなりのものですよね。
管理人はこれまで50曲以上村下さんの楽曲を解説し、当サイトで公開してきました。今回はいよいよこの哲学曲に肉迫しようと思います。
- 参考:村下孝蔵さん楽曲解説特集🎸
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当サイトは非公式のファンサイトであり、ファンの皆様がご自身なりに楽しめる場を提供することを目的としています。同時に、村下孝蔵さんの全楽曲、とりわけその歌詞の意味や世界観を解説することを主たる目標に掲げています。
(⇒村下孝蔵さん楽曲解説・歌詞解題についての詳しい「考え方」はこちら)
ご興味のある方は、以下の記事もお楽しみいただけるはずと自負しておりますので、お時間のあるときにどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
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村下孝蔵さんの哲学曲【読み人知らず】が迫る真の人間像。歌詞の意味や世界観を解説&鑑賞(解説楽曲例:ロマンスカー、だめですか、いいなずけ、北斗七星、夢からさめたらなど)
もちろん個人的な解釈にならざるを得ませんけれど、きっと、皆様が村下さんの楽曲を別な視点から楽しむ参考になること請け合いです☆
下部に歌詞全文を用意しましたので、適宜ご利用くださいね。
- 🎵 当記事の著者について
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雨が降る日に 彼は生まれた
だから 光り 眩しくて
解題
おそらく村下さんの楽曲のうちで最も激しいドラムで始まる本楽曲。シンセサイザーの特徴的なリフレインも印象が強いです。
タイトルにもみられるように、いかにも深みある世界を描こうとしている気配が冒頭の音楽だけでも感じられます。
テイストの似た作品としては「一粒の砂」や「東京哀歌」、「釦」などが挙げられますね。
救いを求める人間
本楽曲は具体的な場面設定というよりも、神話のような、人類に語り継がれる逸話のような造りがみられます。
あえてまとめるならば、人の子として産み落とされた私たちが、本来の居場所である神のもとへ戻る様を描いているといえるでしょうか。
ある「雨が降る日に」自分がこの世に「生まれた」ことに気付いた灰色の姿をした人間(私たち、彼)は、それから何年もの時間を苦悩の中で過ごします。
生まれ落ちたその日、空は雨と雲に覆われていたため、存在そのままに生きるような「光り」に満ちた場所は彼にとって「眩しくて」いたたまれませんでした。
示唆や比喩にも富む村下さんの歌詞ですけれど、この曲はさらに一段上をいっていますね。
弱い生き方 救い求めた
待ち人は まだ来ない
流れにのまれて 把むべきものなく
そんな彼にできたのは、すがりつく相手や物を探し歩く「弱い生き方」だけであり、一日たりとも「救い求め」ない日はありませんでした。
ともにこの生を渡るため手に入れた、あるいは手に入れたいと願っていた「待ち人は」当然いまも「まだ来ない」ままです。
こうして生きる彼がこの世の混沌とした「流れにのまれて」しまうのは道理であって、その奔流に巻き込まれる間にも「把むべきものなく」沈んでいきます。
避けられない落とし穴
*誰も彼もが 迷い込んでは 落ちる
深い嘆きの 落とし穴へと
はいあがるんだ
ひとりの力で
ここで取り上げられている人間(彼)に限らず「*誰も彼もが」、この世間からの救いを求めて「迷い込んでは」逆説的に「落ちる」のは、もがけばもがくほど激しい「深い嘆きの 落とし穴」です。
しかし、そのことを自分自身でよく見つめている人間は「はいあがるんだ」と決意もするのですね。
実際にそれが「ひとりの力で」可能なのだと宣言しているともいえるでしょう。
読み人知らずの言葉
母は息子に 愛を与えて
熱い心 授けたが
強い言葉に 振り回された
読み人は まだ知らず
失くすだけ失くし 頼るべき人なく
楽曲の焦点ははまた別の人間の在り方へと変遷します。
この世のどこか、あらゆる街の一室で「母は息子に」無限の「愛を与えて」勇気づけ、生き抜くための「熱い心」を「授けたが」、反対に息子はその「強い言葉」に人間が与えてきた意味「に振り回され」てしまいます。
当初その言葉を語った「読み人は」むしろ「まだ」誰も「知らず」、言葉だけが彼に重くのしかかります。
その言葉に従って生きるうち、彼は自分のうちに存在していたものを「失くすだけ失くし」、この世を渡るのに「頼るべき人なく」途方にくれています。
君も彼女も とらえられては
ひどい痛みの 傷をうけている
抜け出してゆけ
神の両手へ
こうした境遇にあるのは彼だけではなく、この世に暮らす「君も彼女も」同じように「とらえられては」、知らず知らず「ひどい痛みの 傷をうけている」のだ。
いつまでもそうやって生きていくのだろうか? それが本当に我々の望みなのだろうか?
いまこそ自分の力で「抜け出してゆけ」、自分自身ありのままでいられる輝かしい「神の両手へ」。
人間としての宣言
*くりかえし
自らも他のすべての人間も同じ場所にいることを見抜いた彼は、自分やこの世間を生きる存在みなに対して「*くりかえし」励まします。
誰もが一度はこの世の流れに巻き込まれて苦痛を味わう。しかし、その苦痛を知るからこそ、誰もがひとりの力でそこからはいあがることができる。
そうやってひとり奮闘するのが人間の姿であり、その姿はすなわち神の両手へ抜け出す私たちの生そのものなのだ、と。
いま、灰色だった彼のシルエットは光に満ちて自他を照らしています。
村下さんの楽曲が人間存在へ直接迫る味を持ち始める時期に制作された名曲ですね。その後の楽曲の方向性を示唆していると感じます。
わしはのほほんと80年ほど坐禅をしてきたが、この曲はなかなか厳格な人間像を描いていて面食らってしまったぞ。
※楽曲解説もダルマ師匠の感想も個人的な意見です笑
聴きどころ
本楽曲のテーマや音楽の力強さはすでに見てきましたが、村下さんの歌唱も実に高らかでありながら愁いも含んでいて見事です。
苦しみが正面から描かれているようでいて、根本的には人間賛歌・応援歌であることも要注目でしょう。
また、エンディングでいろいろな音が重複し、錯綜していく部分は、かのビートルズ(The Beatles)の楽曲を連想させます。
「ベンチャーズを聴いていればビートルズなり何なり
その時代の音楽はみんな分かる」
と、どこかのインタビューで語っていた村下さんらしい(?)演出でしょうか笑
管理人の感想(あとがき)
管理人は「陽だまり」から村下さんに入ったのですが、特に気に入っているのは後期の楽曲なのです。
本楽曲のような人間存在そのものを題材とした曲も多く、しかしながら男女の関係のうちにそれを描くというスタンスもすごく好きです。
毎度コメントしていることですけれど、村下さんはこの世に存在するものの様子それ自体を大切に愛していたのだな、と感じるのです。
タイトルについて
「読み人知らず」という本楽曲のタイトルについて補足しておきます。
日本の古代から中世にかけての和歌集において、収録された和歌を作った人物が不明である場合に用いられる表現。詠み人知らず、読人不知などとも書く。
このように、その和歌(文章、言葉)を発した人物がはっきりしない場合を指すものです。
よって解説本文では、もともとの人物が言葉を使った趣旨や意図から遊離して、その言葉だけが人間に強い影響を及ぼすようになった、というような視点で記述しました。
さらに深読みすれば、曲のタイトルにこの表現が現れているということは、村下さん自身がこの曲を自分の作だと主張する意思がなかった、あるいはそのことに意義を感じていなかったのではないかとも思えます。
それもまた道理で、人間そのものに迫るうえで仮に真実を語っているなら、語り手が誰であるかは重要な意味を持たないからですね。
怪我をすれば血が出るという事実は、神が言おうが首相が言おうが赤ちゃんが指を差そうが真実に変わりありません。
まとめ
今回は村下孝蔵さんの哲学曲「読み人知らず」を解説・鑑賞してまいりました。
前に述べたように、同じ方向性がはっきりとみえる楽曲としての「一粒の砂」もすでに当サイトで解説済みですので、ご興味のある方はぜひご覧くださいね!
さらに他の楽曲解説は歌詞全文下部↓のリンクからどうぞ。(直近の解説楽曲は「白い花の咲く頃」でした)
読み人知らず【歌詞全文】
雨が降る日に 彼は生まれた だから 光り 眩しくて 弱い生き方 救い求めた 待ち人は まだ来ない 流れにのまれて 把むべきものなく *誰も彼もが 迷い込んでは 落ちる 深い嘆きの 落とし穴へと はいあがるんだ ひとりの力で 母は息子に 愛を与えて 熱い心 授けたが 強い言葉に 振り回された 読み人は まだ知らず 失くすだけ失くし 頼るべき人なく 君も彼女も とらえられては ひどい痛みの 傷をうけている 抜け出してゆけ 神の両手へ *くりかえし
(作詞・作曲:村下孝蔵 編曲:水谷公生ー1989年11月1日)
関連記事ーその他楽曲解説など
ここまでお読みくださってありがとうございました!
村下孝蔵さんには他にも素敵な楽曲がたくさんあります。
当サイトでこれまで取り上げた楽曲を改めて掲げておきますので、お時間のあるときに遊びにいらしてくださいね~
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