村下孝蔵さんの【私一人】はまるでこの私。歌詞の意味や世界観を解説&鑑賞
村下孝蔵スペースへようこそ! 楽曲解説をお楽しみいただいていますでしょうか?
当記事では、大ヒット曲「初恋」と同じアルバムに収録された「私一人」を解説・鑑賞してまいります。
- 参考:村下孝蔵さん楽曲解説特集🎸
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(⇒村下孝蔵さん楽曲解説・歌詞解題についての詳しい「考え方」はこちら)
ご興味のある方は、以下の記事もお楽しみいただけるはずと自負しておりますので、お時間のあるときにどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
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村下孝蔵さんの【私一人】はまるでこの私。歌詞の意味や世界観を解説&鑑賞(解説楽曲例:ロマンスカー、だめですか、いいなずけ、北斗七星、夢からさめたらなど)
個人的な解釈になることは避けられませんが、きっと、皆様が村下さんの楽曲を別な視点から楽しむ参考になること請け合いです☆
下部に歌詞全文を用意しましたので、適宜ご利用くださいね。
- 🎵 当記事の著者について
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(名無星さんはkatteniPVと題して自主制作で村下さんの楽曲のプロモビデオを作っていらっしゃる方です)
愛する人のない 冷たいこの街で
私は一人生きてゆける
解題
どこかへ落ちていくようで、それでいて逃れられない誘惑のようなものも感じさせるドラムとイントロで開始する本楽曲。
テレビドラマの主題歌には起用されないかもしれませんが、むしろ楽曲の空気感自体がドラマのようでもありますね。
基本的な場面設定としては、とある男性を愛した女性が男性の後を追って都会へ来てみたものの、何らかの事情で二人はお別れする結果となったという感じでしょうか。
都会へ出てみたときには、女性は男性との明るい未来を思い描いていたことでしょう。けれど運命は二人を結び合わせることなく、もはや二人が関わりをもつことはありません。
すなわち、もう「愛する人のない」他にすがるべき温もりなど存在しない「冷たいこの街で」、女性はつぶやきます。
男性のことを想うからこそ「私は一人生きてゆける」と、すでに目の前にいない男性へ向けて語り掛けるように。
あなたの後を追い ここまで来てみたが
もう今は逢わずにいたい
おそらく女性は比較的田舎の地方の出身なのかもしれません。
男性の「後を追い」右も左も分からない「ここまで来てみたが」、女性は「もう今は」男性と「逢わずにいたい」と願います。
楽曲からは読み取れませんが、男性との考え方の違い、生育環境の違い、周囲に築いている人間関係の違いなど数々の面で二人が結ばれる可能性はないと判断したのかもしれません。
村下さんの得意とする関係性に照らすと、確かに考えられるな。
日暮れには茜雲
故郷とどこか似ている
この場所で あなたの幻を追いかけ
そんな想いを抱えた女性がある日の「日暮れ」に道を歩いていると、赤くなっていく空「には茜雲」が浮かんでいます。
男性ただ一人を恃(たの)みにして上京した女性が、何もかもを受け入れて見守るようなこの光景を「故郷とどこか似ている」と感じるのも道理でしょうか。
それでも本当に男性を愛していた(愛している)女性は、やはり「この場所で」二度と逢うことのない男性「の幻を」永遠に「追いかけ」て過ごすしかないことも自覚しているようです。
愛されることが下手な私だけど
薄紅の朝を待ってる
一人で赤く輝く茜雲の下を歩きながら、女性は思います。
「愛されることが下手な私だけど」、いつかは自分なりに暖かな心で目覚めることのできる「薄紅の朝を待ってる」。
きっと心の中にずっといる男性に向けて語ったのかもしれませんね。
誰かを好きになり もし叶わなくても
私は一人生きてゆける
人ゴミ 帰り道 ドアに写る顔に
ふいに悲しくなったけれど
夕日が傾く速度を増していく街並みを歩くうち、女性の胸にまた一つの想いが浮かびます。
これから自分が「誰かを好きになり」いくら気持ちを伝えたとして「もし」結ばれることが「叶わなくても」、やはり「私は一人生きてゆける」のだ。
だって、これまでもこれからも二度とないほどに愛した男性ともう二度と逢えなくても、こうして生きているのだから。
そんなことを考えながら少し心を強くしたような感覚でいた女性ですが、日差しが届かなくなり底が暗く沈んだ道路を行く「人ゴミ」の中を歩き続けます。
かつて男性とともに何度も通った自宅への「帰り道」、偶然ガラス張りの「ドアに写る」自分の「顔にふいに悲しくなったけれど」女性は足を止めません。
濡れた歩道 人待ち顔で
さまよい歩く寂しさ
この場所で あなたの幻を追いかけ
雨も落ちてわずかに残照を含む「濡れた歩道」を、決して来ることのない男性を求める「人待ち顔で」一人いつまでも「さまよい歩く寂しさ」こそが、かえって女性の足を進めるのです。
あの角を曲がれば、もしかしたら男性が何もなかったかのような顔をしてそこにいるかもしれない。
あの街灯の下で煙草の火を見つめている人は、近づいてみれば自分が全霊をかけて愛した男性かもしれない。
この街のどこを見ても、人と人が関わり合って、それぞれの人生を生きている。そのどれもが輝いているように見えて、切なくも見える。
そんな「この場所で」女性だけがずっと男性の「幻を追いかけ」……、
愛する人のない 冷たいこの街で
私は一人生きてゆける
私は一人生きてゆける
女性にとっては「愛する人のない」、夕景色ばかりが故郷と似てむしろ「冷たいこの街で」、女性は「一人生きてゆける」と自分に言い含めます。
男性と過ごした時間をたたえるこの街には、二人の想い出の数々が永遠に残っているから「私は一人生きてゆける」と、女性はまた次の朝日を待っているのです。
自分のすべてをかけて人を愛した女性の姿を、都会に生きる人々の在り方にも対照させて描いた深みある名曲だといえるでしょう。
聴きどころ
まずは響きの良い村下さんの歌声が目立ちます。歌唱の語尾で短く入るビブラートによって、やや演歌調な雰囲気を感じさせるのも本楽曲の特徴かもしれませんね。
「この場所で」という箇所に入るときの音楽の溜め感もすばらしいと思います。
バックコーラスも村下さんの声を飾る程度に抑えらえれていて、楽曲全体としてもあまり音の数が多くないと思いますけれど、十分に世界観を演出しているところはさすがですね!
管理人の感想(あとがき)
「初恋~浅きゆめみし~」に収録されている楽曲ですので、管理人も早い段階で触れました。
今回解題をするにあたって何度も聴き込んでみると、やっぱりこの曲は(まぁ他の曲もなのですけど笑)村下さんの声が実に良い仕事をしていることが分かりました。
広々した声質が描かれる街並みの空間を大きくしてくれますし、その場所でとある女性がぽつりとひとり生きていくというような印象を作るうえでも有効に作用しています。
特にこの曲の村下さんの歌唱は、弦楽器が言葉を発しているような錯覚に陥るのは管理人だけでしょうか……。
まとめ
今回は村下孝蔵さんの「私一人」を解説してまいりました。
他の楽曲解説もご覧になりたい方は、歌詞全文下部↓のリンクへどうぞ。(直近の解説楽曲は同じく『初恋~浅きゆめみし~』から「挽歌」でした)
私一人【歌詞全文】
愛する人のない 冷たいこの街で 私は一人生きてゆける あなたの後を追い ここまで来てみたが もう今は逢わずにいたい 日暮れには茜雲 故郷とどこか似ている この場所で あなたの幻を追いかけ 愛されることが下手な私だけど 薄紅の朝を待ってる 誰かを好きになり もし叶わなくても 私は一人生きてゆける 人ゴミ 帰り道 ドアに写る顔に ふいに悲しくなったけれど 濡れた歩道 人待ち顔で さまよい歩く寂しさ この場所で あなたの幻を追いかけ 愛する人のない 冷たいこの街で 私は一人生きてゆける 私は一人生きてゆける
(作詞・作曲:村下孝蔵 編曲:水谷公生ー1983年8月25日)
関連記事-その他楽曲解説など
ここまでお読みくださってありがとうございました!
村下孝蔵さんには他にも素敵な楽曲がたくさんあります。
当サイトでこれまで取り上げた楽曲を改めて掲げておきますので、お時間のあるときにぜひ遊びにいらしてくださいね
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